背景と解決すべき課題:iPadスタンド固定に伴う使用環境の変化と重要UIの消失
Caseline(ケースライン)とは、救急搬送・処置中の現場医師と遠隔の専門医とをリアルタイムでつなぎ、施設内で表示している医用画像・映像を直感的な操作で画像共有しながら音声通話で遠隔診断をサポートするシステムです。
リリース当初、本アプリのUIはスマートフォンやタブレットの「縦向き(ポートレート)」での使用を前提に最適化されていました。しかし、実際の病院の現場、特に処置室のスタンドや壁面にiPadを固定して運用する場合において、デバイスを「横向き(ランドスケープ)」にして置きたいというニーズが発生していました。
従来のレイアウトをそのまま横画面に適用すると、最優先でアクセスすべき「通話相手の選択パネル」が画面外へと非表示になってしまう課題を抱えていました。医師が緊急の連絡を取りたいクリティカルな局面であるにもかかわらず、わざわざiPadをスタンドから外して縦向きに持ち替えなければ操作ができないという、現場の状況にそぐわない不便が発生していました。縦向きと横向き、双方のモードでシームレスな操作が担保されておらず、医療従事者のユーザーエクスペリエンスを損ねていました。
また、この改修に付随して、通話相手のステータスをより直感的に識別できるよう、通話者アイコンの周囲に配置する「枠線のカラーパレット」を新たに拡張・追加しました。実務においてこの新規カラーは本番アプリへと実際に実装され、高ストレス環境における医師の視認性向上に直接貢献しました。
協働プロセス:エンジニアの2案を叩き台にした、議論による「第3の最適解」への着地

このランドスケープモードへの対応にあたり、開発チームのエンジニアからは「中途半端にパネルが見え隠れするくらいなら、横画面では完全に非表示のステートにしたい」「ただ、スタンド固定の状況を考慮すると、横画面でも確実に発信ができるようにしたい」という、実装の制約と現場のニーズが混ざり合った具体的な2つのレイアウト案をベースとして提示されていました。
現場での迅速な対応が求められた当時、私は提示された2案のどちらか一方をそのまま採用するのではなく、その提案をベースにデザインツール上でエンジニアと検証と議論を重ねるアプローチを取りました。結果として、エンジニアが懸念していた技術的な制約をすべてクリアしつつ、実際の医療現場で最も医師の認知負荷を下げられる「双方の案の長所を融合した、第3の最適解」となる新しいUIレイアウトへと着地させました。
このように、動いているデザインデータを中心に置いてエンジニアと密な連携を行うプロセスそのものが中間の構成案(ワイヤーフレーム)の役割を代替したため、ワイヤーフレーム制作の手順を省略。手戻りを防ぎながら、短いタイムラインで開発チームへ最終仕様を引き渡す柔軟なスピード感を実現しました。
実務での新しい取り組み:今後の拡張性を見据えた、Figmaコンポーネント化へのトライと実装
この画面開発を行った当時、社内の共通開発環境においてはまだ共通のデザインシステムや再利用可能なUIコンポーネントが存在しておらず、基本的には画面単位での開発が進められていました。しかし、今後の機能拡張やアップデートを見据えた時、共通のUI基盤がない状態での開発は、将来的にプロダクトの一貫性を崩し、エンジニアの実装負荷を上げるリスクがあると考えました。
そこで今回の改修を進める実務において、私は今後のプラットフォームの拡張に備えてFigma上でUI要素のコンポーネント化とデータ整理の試みを同時に行いました。場当たり的になりがちだった各UI要素を因数分解し、Figmaコンポーネントとして構築した上で画面を設計。これにより、単に今回のランドスケープモードの画面を実装するだけでなく、今後の開発においてデザインの一貫性を維持しやすくするための土台を作りました。本機能およびUIの修正は、エンジニアチームとの連携を経て実際にすべて本番環境へリリースされています。
振り返りと学び:制約の中で最善を尽くし、その先を考えるデザイナーの立ち回り
今回の改修実務において最も重視したのは、緊急医療という高プレッシャーな環境に置かれた医師の「認知負荷を徹底的に下げること」です。縦横のモードをシームレスに統合し、最も重要な通話相手選択パネルを常に視覚的な定位置にレイアウトすることで、迷いなく機能へ素早くアクセスできる直感性を突き詰めました。
個人で突っ走るのではなく、上長のクオリティレビューと確実な承認(GO)のプロセスを経つつ、エンジニアチームの提案と柔軟に作っていく。この実務での連携をベースにしつつ、開発プロセスの効率化を目指してコンポーネント化へのトライを行う。現場での機動力と中長期の設計視点の双方のバランスを保ちながら、これからもプロダクトの課題解決に貢献していきます。
